データサイエンスのいろは · ⏱️ 読了目安 6分

集まったデータは、帰ってきたやつの話だけだった|選択バイアス

知人の送別会のあと、幹事からアンケートフォームが届いた。

「今日の会、いかがでしたか? 1〜5でお聞かせください」

開いて、ボタンを見た。5(最高)か1(最悪)なら迷わない。でも今日はどっちでもない。「よかった」とは言えるけど「最高」ではない。「3」かな、とも思うけど「3」って何なんだ。「普通」ってどういう温度のことを指すんだ。

30秒ほど考えて、フォームを閉じた。何もしなかった。

(会は普通に楽しかった。僕がただ面倒くさかっただけだと思う。)

で、このアンケートに集まった結果を幹事が見たとして——そこに僕の意見は入ってない。答えなかったから。問題は、フォームを閉じたのが僕だけだったのか、ということだ。

声は「出した人」の声だ

レストランに10人が行ったとしよう。そのうち、わざわざレビューを書いたのは2人。1人は「最高だった、★5」。もう1人は「最悪だった、★1」。残り8人は書かなかった。「まあまあだった」のかもしれないし、「次も来てもいいかな」くらいの温度だったのかもしれない。ただ、書くほどの理由が見当たらなかっただけかもしれない。

集まったレビューには、★5と★1がある。平均は3。でも、8人の声はそこにない。

声を出してるのは端っこの2人だけ。真ん中の大多数は、無音。
声を出してるのは端っこの2人だけ。真ん中の大多数は、無音。

これが選択バイアスの核心で——データを集めると、「データを出してくれた人」のデータしか集まらない、という当たり前の、でも忘れやすい事実。

「声が大きいほうが正しい」は直感的に怪しいと気づける。でも「集まったデータが全体を表す」は、怪しさが見えにくい。同じ問題の形をしてる。

帰ってこなかった飛行機の話

第二次世界大戦中の話として広く知られてる。

軍は出撃から帰還した爆撃機を調べ、弾痕の分布を記録していた。翼やエンジン周りに傷が集中していて、機体の中央や操縦席あたりは少ない。「翼を補強しよう」という話になったとき、エイブラハム・ウォルドという統計学者が異論を出した。

「僕らが調べているのは、帰ってきた機体だけだ」

帰ってこなかった機体は調べられない。もし中央を撃たれた機体が帰れなかったとすれば、弾痕が少ない場所こそ致命傷になりやすい。翼に弾痕が多いのは、翼を撃たれても帰ってこれたからにすぎない。補強すべきは、弾痕のない部分だった。

これが生存者バイアス。生き残ったもの、帰ってきたもの、声を上げたもの——映るのはそちらだけで、沈んだ側は最初から映らない。

消えた側に、答えがある

2つの例をまとめると、同じ形がある。

見えているもの消えているもの
レビューを書いた2人書かなかった8人
帰還した機体撃墜された機体
アンケートに答えた人フォームを閉じた人

「集まったデータ」はすべて、「集まってくれたやつのデータ」だ。集まらなかった側は、集計の外にある。

見えているものから答えを出そうとすると、見えていないものが正答に近い——ということが起きやすい。翼を補強しようとして、実は中央が問題だった、という話と同じ構造で。

実務でも、だいたいこれ

「このアプリを使ってみて、いかがでしたか?」のアンケートで、回答者の多数が「満足」だったとする。

誰が答えたか、をまず聞く。

使い続けてる人は答えやすい。不満で離脱した人は、アプリを開かないから、アンケートの画面にすら辿り着かない。回答者の時点で、「残った人」に偏ってる可能性がある。帰還した機体だけ調べるのと同じ構造で、脱落した人の声は最初から入っていない。

「じゃあ、答えなかった人の声はどうやって取ればいいの?」

……解約後アンケートとか、離脱ユーザーへのインタビューとか、手はいくつかある。ある、けど正直まだ得意じゃない。そこは次の課題。

今日の結論

集まった声は、集まった声だけだ。

答えた人の声が、答えなかった人の代わりにはなれない。帰ってきた機体のデータが、落ちた機体の代わりにはなれない。「このデータは誰のデータか」をひとつ聞くと、騙される機数がちょっと減る。

……「機数」は飛行機の話を引きずりすぎた。「回数」だな、普通に。

やあ、ここまで読んでくれてありがとう。

身近な疑問に引っかかったら、数えて確かめないと気が済まない。引っかかってから「なるほど」に辿り着くまでの過程を置く場所「猫だくさん」。