データサイエンスのいろは · ⏱️ 読了目安 7分

前月比20%増の花火を、去年の空にも上げてみた

時系列データは、数字が勝手に物語を作る。 8月の注文数が前月比20%増と出たら、グラフの線が打ち上げ花火みたいに見えてくる。今日はその花火を、去年の空と3か月ぶんの雲にも並べる。

まず、8月だけ見る

架空の小さな通販店の注文数を置いた。実在の店や売上ではなく、時系列の読み方を見るために僕が作った数字だ。

2025年2026年
6月160160
7月170170
8月180204
9月190190

2026年8月は204件。7月の170件と比べると、

(204 - 170) ÷ 170 × 100 = 20%

きれいな20%増だ。僕なら一度、施策が当たった顔をする。グラフの線も8月だけ上へ跳ねる。花火である。

ただ、前年同月の180件と比べると、

(204 - 180) ÷ 180 × 100 = 約13.3%

20%ではない。比較する相手を7月にするか、去年の8月にするかで、同じ204件が別のニュースになる。

数字は前後の席を離れない

時間で並んだ数字は、名簿のように順番だけを持っているわけではない。6月の次に7月が来て、7月の次に8月が来る。隣の数字同士が、天気や季節やキャンペーンの影響を一緒に受ける。

見えている数字一緒に混ざっているかもしれないもの
7月から8月の増加季節、施策、たまたまの大口注文
去年の8月との差年全体の伸び、季節、施策
前後3か月の平均一か月だけの跳ね、ゆっくりしたトレンド

だから、2026年8月だけを見て「8月の施策が効いた」と言うには、まだ早い。8月に毎年増える店なのか、2026年全体が少しずつ伸びていたのか、たまたま大きな注文が一件あったのかが混ざっている。

(数字、前の数字と手をつないでいる。単独行動している顔をしているのに。)

8月だけ高い。花火か、ただの高い点か。
8月だけ高い。花火か、ただの高い点か。

3か月に広げると、花火の高さが変わる

一か月だけの跳ねを少しならすため、8月を中心に前後3か月の平均を出した。これが3か月移動平均だ。難しい名前のわりに、隣の3個を足して3で割るだけである。

2026年の7〜9月は170、204、190なので、

(170 + 204 + 190) ÷ 3 = 188

2025年の7〜9月は170、180、190だから、

(170 + 180 + 190) ÷ 3 = 180

3か月の平均で比べると、2026年は2025年より、

(188 - 180) ÷ 180 × 100 = 約4.4%

増えたことになる。生の8月だけなら13.3%増、3か月に広げると約4.4%増。8月の204件は確かに高い。でも、周りの170件と190件まで連れてくると、勢いの見え方はかなり変わった。

移動平均は、跳ねを消して真実を出す魔法ではない。何か月を見るかを決め、その幅でならした景色を出しているだけだ。3か月なら短い変化を残し、12か月なら季節の波までならしやすい。窓を広げるほど、細かい事件は見えなくなる。

ならす幅残りやすいもの消えやすいもの
3か月短いトレンド一か月だけの跳ね
12か月年全体の傾向季節ごとの波

前年同月比は、去年の同じ席を見る

前年同月比は、2026年8月を2025年8月と比べる。季節の影響をある程度そろえられるので、前月比とは違う質問に答える。

  • 前月比: 7月から8月へ、直近でどう動いたか
  • 前年同月比: 去年の8月から今年の8月へ、季節をそろえてどう動いたか
  • 移動平均: 周りの月も含めたとき、跳ねがどれくらい残るか
比較の方法今回の数字見えたこと
前月比(204と170)20%増直近の跳ねが大きく見える
前年同月比(204と180)約13.3%増去年の8月との差になる
3か月平均(188と180)約4.4%増一か月の跳ねが薄まる

どれか一つが正解という話ではない。僕が8月の204件を見たときは、まず生の数字を残し、前年同月比で季節を合わせ、3か月移動平均で一発の跳ねを薄める。この順番にした。

今回の小さな表では、8月だけは前年同月比約13.3%増だった。一方、7〜9月の3か月平均は約4.4%増。トレンドが少しあるのかもしれないし、204件の一発が混ざっただけかもしれない。ここから先を、4つの数字だけで決める気にはならない。

今日の手の内

時系列の数字を見たとき、僕は「増えた」をすぐ施策の効果にしない。まず比較する相手を二つ置く。

  1. 直前の月と比べる
  2. 前年同月と比べる
  3. 前後を含む移動平均で、跳ねの大きさを見る
確認するもの僕が見る問い
直前の月いま急に動いたのか
前年同月季節をそろえても動いたのか
移動平均一か月だけの花火ではないか

8月の204件は、7月の170件から見ると20%増だった。去年の8月180件から見ると約13.3%増で、7〜9月の3か月平均では約4.4%増だった。同じ数字が、比較相手を替えるたびに少しずつ違う話をしている。

並んだ数字は、勝手に起承転結を作る。僕がやることは、その物語をすぐ信じることではなく、去年のページと前後の3ページをめくることだった。

8月の204件は、たしかに花火みたいに高く上がった。でも、7月と9月を一緒に空へ描くと、打ち上げ花火というより、少し高い一個の星に見える。花火大会を開催するには、もう少し月が要る。

やあ、ここまで読んでくれてありがとう。

身近な疑問に引っかかったら、数えて確かめないと気が済まない。引っかかってから「なるほど」に辿り着くまでの過程を置く場所「猫だくさん」。