データサイエンスのいろは · ⏱️ 読了目安 5分

グラフは、目で殴ってくる|縦軸とデータの見え方

テレビをつけたら、ニュースで「◯◯が急落」のグラフが映ってた。折れ線がすごい勢いで右下に落ちていて、一瞬びっくりした。ちゃんと見ようと画面に近づいて、縦軸を確認した。

98から始まってた。

動いてたのは99.1%から98.7%。0.4ポイントの変化。縦軸が98から始まってたから、グラフ上では天辺から底まで落ちたように見えてただけ。

……全然落ちてないじゃん。

縦軸が感情を動かす

同じデータ(99.1%→98.7%)を、縦軸だけ変えて描いたとする。

  • 縦軸を0〜100にする: 線はほぼ水平。変化が小さすぎて、ぱっと見は分からない
  • 縦軸を98〜100にする: 線は天辺から底まで落ちる。インパクト最大

どちらも、数字は正しい。グラフが描いてるデータも同じ。ただ、見た人が受け取る印象はまるで違う。

同じ変化でも、縦軸の取り方で「断崖」か「段差」かが決まる。
同じ変化でも、縦軸の取り方で「断崖」か「段差」かが決まる。

縦軸が0から始まっていないこと自体は、必ずしも嘘じゃない。0.1%単位の変化を0〜100のスケールで見せたら、変化が見えなさすぎる、という事情もある。でも「0始まりかどうか」を確認しないで見ると、視覚の印象にそのまま引きずられる。

同じ系の技が、他にも2つある

② 期間を都合よく切る

「今年4〜6月は右肩上がり!」——年間で見ると、1〜3月に落ちた反動で戻っただけ、という話がよくある。5年間のデータのうち、一番調子よかった3ヶ月だけ切り取れば、どんなデータも「絶好調」を演出できる。

「どこからどこまでのデータか」が見えていないと、期間の選択だけで印象はいくらでも変わる。

③ 二軸を重ねるとき

左軸(たとえば売上)と右軸(たとえば気温)を別スケールで設定して、2本の線を同じグラフに引く。スケール次第で、どんな2本の線も「連動してる」ように見せたり「無関係」に見せたりできる。

二軸グラフ自体が悪いわけじゃないけど、「どちらの軸に何が対応してるか」を確認しないと、スケールの設定で印象を誘導されやすい。

みんな知ってる本が、まるごとこの話をしてた

Darrell Huff の『統計でウソをつく法(How to Lie with Statistics)』、1954年の本。このシリーズで何度か名前が出てきた本だけど、グラフの操作の話、この本が一章使って書いてある。

縦軸を途中から始める、期間を切り取る、二軸で印象を操る——全部70年以上前からある技。新しくない。

「数字は嘘をつかない。でも嘘つきは数字を使う」(誰の言葉かは諸説あって、濁しておく)のグラフ版がこれだ。文章で書けば「0.4ポイント低下」で終わる。グラフなら、その同じ事実を断崖絶壁に見せながら数字は正直、が成立する。見る側の感情を動かしやすい分、グラフはずっと効く。

じゃあグラフはぜんぶ疑わないといけない? 見るたびに軸を確認するの、めんどくさくない?

……全部疑うんじゃなくて、「感情が動いたとき」だけ軸を見る。その1秒だけ。

感情が動いたら、軸を見る

覚えることは3つ。グラフが感情を動かしてきたときだけ確認すればいい。

  1. 縦軸が0から始まってるか(始まってないなら、そのスケールを意識して見る)
  2. 横軸の期間がどこからどこまでか(都合のいい期間だけ切り取ってないか)
  3. 二軸グラフのとき、どちらの軸に何が対応してるか(2本の線が連動して見えても、スケール設定が別かもしれない)

グラフが「急落」「急伸」「連動」を見せてきたと感じたら、まず軸を確認する。それだけ。

……「騙される回数が減る」のが正確かどうかは、測ってない。測ったらまた書く。

やあ、ここまで読んでくれてありがとう。

身近な疑問に引っかかったら、数えて確かめないと気が済まない。引っかかってから「なるほど」に辿り着くまでの過程を置く場所「猫だくさん」。