データサイエンスのいろは · ⏱️ 読了目安 6分

「確率は山になる」と思ってたら、山にならない確率もいた

スーパーの隅っこに、りんごを1個ずつ手に取って量れる台があった。会計まで少し時間があったから、暇つぶしに5個くらい適当に持ち上げて、量りに乗せてみた。280g、265g、300g、270g、290g。

バラバラなのに、バラバラの仕方が上品というか、280g前後に寄ってる。極端に軽いのも、極端に重いのも出てこない。

確率で決まる数字ってのは、繰り返すとどんな形に積み上がるかの「型紙」を、現象ごとに最初から持たされてるらしい。 りんごの重さは真ん中がふくらんだ山になるけど、たとえばコンビニのレジに客が来るタイミングは、山どころか、来ない時間がずっと続いた後にどっと来る、みたいなムラの形になる。同じ「確率任せの数字」なのに、そもそも形からして種類が違う。

(大きい数を集めれば、そのうちみんな富士山みたいな形になってくれると思ってた。それ、半分正解で半分不正解だった。)

山になる理由、山にならない理由

さっきのりんご、なんで真ん中に寄るのか考えてみた。りんご1個の重さは、日当たり・水の量・木のどの枝についてたか・収穫のタイミング……色んな小さい要因が足し算されて決まってるはずだ。小さい要因がたくさん足し算されると、結果はだいたい真ん中に寄って、両端に行くほど少なくなる山の形になりやすいらしい。身長も同じ理屈で、遺伝や栄養や生活習慣が積み重なって1個の数字に落ち着くから、山になる。

じゃあ、レジの行列はなんで山にならないんだろう。

行列は「足し算」じゃなくて「独立に起きる出来事の数」だ。次の客がいつ来るかは、前の客がいつ来たかとほとんど関係ない。関係ない出来事がポツポツ起きるのを数えると、山じゃなくて、0回・1回・2回……が起きる確率が右肩下がりに減っていく、非対称な形になる。足し算で寄っていくタイプの数字と、数え上げるタイプの数字は、最初から別の形をしてる。

実際に3つ並べてみる

言葉だけだと分かった気になるので、代表的な3つを並べてみた。

名前何を数えてるか形の癖
二項分布「はい/いいえ」を決まった回数だけ繰り返した結果コインを100回投げた「表の数」回数が多いと山に近づく。ただし上限と下限がある(0〜100回)
ポアソン分布決まった時間・範囲の中で、バラバラに起きる出来事の数1日に来る問い合わせの件数0付近が多く、右に長く裾を引く。上限がない
正規分布たくさんの小さい要因が足し算された結果たくさんの要因が積み重なった身長左右対称の山。裾は両方ともなだらか

コイン100回、表の数はだいたい50回あたりに集まって、山っぽい形になる。でも「絶対50回に集まる」わけじゃなく、0回や100回になる可能性もゼロではない、ただしめちゃくちゃ低い、という上限・下限つきの山だ。

問い合わせ件数のほうは、山にすらならないことがある。1日の平均が2件だとしたら、実際に一番多いのは1件か2件の日で、0件の日もそこそこある。3件、4件と増えるにつれて出現率は下がっていくけど、ゼロにはならない。マイナスの日はありえないから、左側はゼロで急に切れて、右側にはロングテールが伸びる非対称な形になる。

山になるやつと、右に長く伸びるだけのやつが、同じ紙の上に並んでる。
山になるやつと、右に長く伸びるだけのやつが、同じ紙の上に並んでる。

正規分布だけが「みんなが思ってる山」で、二項分布は「条件付きの山」、ポアソン分布は「そもそも山じゃない」。3つとも”確率で決まる数字”という点では同じ仲間なのに、形の癖はまるで別物だった。

じゃあ、データを取ったら、とりあえず正規分布に当てはめとけばいいってこと?

……それをやると、右に裾が伸びてるだけのデータに「山の中心」を無理やり探しに行くことになる。まず、その数字が「足し算」なのか「数え上げ」なのか、そこを見るほうが先だと思う。

形を先に決めてから、数える

正規分布は便利すぎて、なんでも当てはめたくなる。でも今日並べてみて分かったのは、山になるかどうかは後から確かめることじゃなくて、その数字が「何を足し算してるか」「何を数え上げてるか」で最初から決まってるってことだった。

りんごの量り売り台に戻って、もう5個乗せてみた。278g、310g、255g、290g、265g。合わせて10個、280gあたりに集まったまま、極端に軽いのも重いのもまだ出てこない。

台に戻ってきた僕を見て、店員さんがちょっと変な顔をした。買わずに量るだけの客、たぶんあんまりいない。

やあ、ここまで読んでくれてありがとう。

身近な疑問に引っかかったら、数えて確かめないと気が済まない。引っかかってから「なるほど」に辿り着くまでの過程を置く場所「猫だくさん」。