データサイエンスのいろは · ⏱️ 読了目安 10分

500mlのビールと50mlのスピリタスを、液体の量だけで比べるな|単位を揃える

深夜、ネット通販の画面でエナジードリンクを箱買いしようとしていた。お気に入りのブランドの24本入りを眺めていたら、すぐ隣におすすめで「1本あたり50円安い!」という別のセットが表示された。「お、ラッキー」と思ってカートに入れそうになり、寸前で手が止まった。安いほうは250ml缶で、いつものやつは355ml缶だった。1本の値段で比べてどうする。100mlあたりの単価に直したら、むしろ250ml缶のほうが割高だった。危ないところだった。

一言でいうと、数字を比較するとき、ものさしの「単位」を揃えないと計算はすべて無意味になる

例えば、目の前に500mlのロング缶ビールと、ショットグラスに入ったアルコール度数96度のスピリタス50mlを置かれたとする。 「500mlと50mlだから、ビールのほうが10倍強い!」 そう言ってスピリタスを一気飲みしたら、その日の夜に救急車で運ばれることになる。

液体の量(ml)という見た目の数字だけを比べても意味がない。酔っ払う強さを比べたいなら、中に入っている「純アルコール量」という共通のものさしに換算しなきゃいけない。

  • ビール(500ml × 5%)= 25ml
  • スピリタス(50ml × 96%)= 48ml

液体の量は10分の1しかないのに、純アルコール量はスピリタスのほうが2倍近く多い。

「そんなバカな勘違い、誰もするわけない」とみんな笑うはずだ。居酒屋でビールと強い酒を見比べて、ミリリットルの多さだけで度数を競うやつはいない。 けれど、パソコンを開いて仕事のエクセルや分析ツールを触り始めた瞬間、僕らはこの「ビールとスピリタスをmlだけで比べる」ような大事故を、平気な顔でやってしまいがちだ。

今日は、数字を計算する前に僕が必ず立ち止まって確認している、「ものさしの単位を揃える」手の内を書いてみる。

まず、2倍に急成長した売上を並べてみる

実在の会社のデータを出すと角が立つので、僕が作った架空の数字を置いた。

ある小さなオンラインショップを新しく立ち上げたとしよう。初月の集計が終わって、売上レポートを開く。

  • 先月の売上:60万円
  • 今月の売上:120万円

「先月比で売上2倍! 100%成長のロケットスタートです!」

画面を見ながらガッツポーズをしたくなる。数字に嘘はない。60万円から120万円へ、確かに2倍になっている。 けれど、カレンダーをめくって「営業日数(期間)」を確認した瞬間、空気が凍りつく。

ショップをオープンしたのは先月の中旬、16日だった。つまり先月は 15日間 しか営業していない。一方で今月は、30日間まるまる営業していた。

営業日数で割って、「1日あたりの売上」に単位を揃えてみる。

  • 先月:60万円 ÷ 15日 = 1日あたり4万円
  • 今月:120万円 ÷ 30日 = 1日あたり4万円

成長率はゼロだ。横ばい。1ミリも増えていない。

「60万」と「120万」という数字だけを並べて「2倍に急成長した!」と喜んでいたのは、15日分のビールと30日分のビールを並べて「量が多い!」と言っていたのと同じことだ。期間というものさしを揃えずに数字を比べると、ただの日数の差が「急成長」という幻影に化けてしまう。

500mlのジョッキと50mlのショットグラス。液体の量だけで強さは決まらない。
500mlのジョッキと50mlのショットグラス。液体の量だけで強さは決まらない。

「率(%)」と「件数(人)」を混ぜる手品

期間のズレと同じくらい実務で頻繁に踏み抜かれるのが、「率」と「件数」のすり替えだ。

Webサイトやアプリの改善をやっていると、こんな報告をよく見かける。 「購入ボタンのデザインを変えたら、コンバージョン率(購入率)が 2%から10%へ、なんと5倍に跳ね上がりました!

5倍。誰が聞いても劇的な大成功に思える。上司もクライアントも大喜びでシャンパンを開けそうな勢いだ。 けれど、分母(サイトに来た人数)と分子(買った人数)を並べてみると、こんな内訳だったりする。

期間来訪者数(分母)購入者数(分子)購入率(率)
変更前(先月)10,000人200人2.0%
変更後(今月)50人5人10.0%

何が起きたのか。 広告の配信設定をミスって予算が止まり、サイトへの来訪者が1万人から50人へと99.5%も激減していた。残った50人は、たまたまブックマークからやってきた超熱心な常連さんたちで、そのうち5人が買ってくれた。だから「5 ÷ 50 = 10%」になった。

購入率は確かに2%から10%へ「5倍」になっている。嘘は1ミリもない。 けれど、売れた件数は200人から5人へ、97.5%も吹き飛んでいる。客単価が同じなら、売上は壊滅だ。会社が倒産しかけている。

「CVRが5倍に改善しました! 施策は大成功です!」

……売上は200件から5件に激減して、現場は火の車なのに。手品かよ。

「率(%)」という単位と、「件数(人・件)」という単位。どっちのものさしで話をしているのかを隠したまま、「5倍」という倍率だけを切り取って見せるのは、もはやデータ分析ではなくマジックショーだ。

計算する前に、まずものさしを合わせる

昔からよく言われる合言葉がある。「数字は嘘をつかない。でも嘘つきは数字を使う」。

誰が最初に言い出したのかは諸説あって(マーク・トウェインが自伝で引いたとも、昔の統計家キャロル・D・ライトの言葉だとも言われる)、はっきりしない。だから僕も「昔からそう言われている」と濁しておく。

けれど、1954年にダレル・ハフが書いた古典『統計でウソをつく法』をめくると、まさにこの「単位や分母をすり替えて人を騙す手口」がこれでもかと並んでいる。70年前から人間がやってることは変わらない。

実務でデータを見るとき、僕らはつい高度な計算式や統計モデルに目が行きがちだ。相関係数はいくつか、回帰直線の傾きはどうだ、機械学習の精度は何%か。 けれど、実務で起きる一番致命的なミスは、計算式の中ではなく、**その計算に放り込む前の「単位の不揃い」**から生まれる。

  • 「円/月」と「円/年」が混ざったまま売上を比較する
  • 営業日数が違う「2月(28日)」と「3月(31日)」をそのまま前月比にする
  • ドル建ての仕入れと円建ての売上を為替換算せずに並べる
  • 「率(%)」と「実数(個)」を都合よく切り替えて成果を誇張する

単位がバラバラな数字に、どれだけ高度な分析ツールを通しても、出てくるのは「ものすごく精密に計算されたゴミ」でしかない。

データ分析の世界には「Garbage In, Garbage Out(ゴミを入れたらゴミが出る)」という有名な言葉があるけれど、単位の揃っていない数字はまさに特級のゴミだ。計算の手間をかける前に、まずものさしの目盛りを揃える。それが僕らの身を守る一番の防具になる。

今日の結論:救急車を呼ぶ前に、ラベルを見る

冒頭のビールとスピリタスの話に戻る。

500mlの缶ビールと、50mlのスピリタスのショットグラス。 液体の量だけを見て「500の勝ち!」と叫んで強い酒を一気飲みするやつはいない。みんな無意識のうちに、ラベルに書いてある度数を見て、「純アルコール量」という同じ単位に換算している。

データを見るときも、全く同じだ。 画面の向こうで「60万が120万になった!」「2%が10%になった!」という景気のいい数字が飛び込んできたとき、僕は電卓を叩く前に、まず数字の右端に小さくついてる「単位」を見ることにしている。

それは日数の違いを隠していないか。分母の大きさを無視していないか。 グラスの大きさに惑わされて救急車を呼ぶ羽目になる前に、手元のものさしを、1回だけ揃えてみたい。

やあ、ここまで読んでくれてありがとう。

身近な疑問に引っかかったら、数えて確かめないと気が済まない。引っかかってから「なるほど」に辿り着くまでの過程を置く場所「猫だくさん」。